我が家の問題 奥田英朗(おくだ・ひでお)

2025年(令和7年)3月に読んだ本の感想記録です。家族に関する短編が続きます。
我が家の問題 奥田英朗(おくだ・ひでお) 集英社文庫
『甘い生活?』
新婚夫婦がうまくいっていないお話です。
田中淳一 32歳 広告代理店勤務。18歳のときに上京した。結婚して2か月がたった。
田中昌美 30歳 田中淳一の妻。結婚して、大手ゼネコンを退職した。総務部勤務だった。夫の淳一は、共働きのつもりだったが、昌美はさっさと辞めてしまった。そういう会社の慣例らしい。寿退社(ことぶきたいしゃ)。昌美は、30歳になる前に結婚したかった。20代で結婚したかった。現在、専業主婦をしている。
淳一は、家に帰りたくない。帰りたくないから、残業と称して、同僚たちとマージャンをやる。ありがちなことです。
お気楽な男たちの職場での会話があります。各自、奥さんのことを話します。
田中昌美さんはまじめだし、田中さんのご親族もまじめです。田中昌美さんは、客観的に見て非の打ち所がないいい奥さんです。心も優しい。妻として何の落ち度もありません。
だけど、田中淳一さんは、家に帰りたくないのです。奥さんのまじめなところがイヤで、家でふたりきりになると息が詰まりそうなのです。妻のがんばりが、夫にとっては負担なのです。
文章が生きています。おもしろい!
いい文章が次々と出てきます。
『……(昔は)見合い結婚が主流で、お互いをろくに知ることなく夫婦になったのだ……』
『学歴は保険』
『旦那の、家事を手伝ってやってるんだという態度が我慢ならなくて、半年で破局したそうです(離婚した)』
『じゃあ奥さんに従うのが一番でしょう』
読んでいると、(相性とか価値観とか性格とかが不一致で)このふたりはいっしょになってはいけなかったのではなかろうかという気分になってきます。
まだ妊娠もしていないのに、こどもが生まれる前からこどもの教育方法・手法で対立している不思議な夫婦です。
田中淳一は、仕事が終わったあと、まっすぐ家には帰らずに、30分ぐらい同じ喫茶店で過ごして気分転換をはかるようになりました。それで、気持ちが落ち着くのです。奥さんには内緒です。(でも、ばれます。奥さんに怒られます)
ふたりいれば、ふたつの考えがある。
『理想』と、『現実』の間で、妥協(だきょう。互いに譲りあって、これならがまんできる)できるところを探す(さがす)。
あきらめる(妥協する)ことで、こどもは、おとなになるという成長過程を通過するということはあります。
お互いの本音をぶつけあう激しい夫婦ゲンカ(口論)が始まりました。
お互いを理解するための猛烈な夫婦ゲンカです。
そうやって、夫婦は、夫婦になっていくのです。
人生の長い道のりを歩んでいくのです。理解したあとは、協力しあうのです。
歳をとっても仲がいい夫婦というのはいます。お互いがお互いに気をつかっているから仲がいいのです。
いいお話でした。
『ハズバンド(英語で、夫とか、旦那(だんな)という意味)』
「どうやら夫は仕事ができないらしい」から始まりました。
井上めぐみ:妻。妊娠中。30歳目前に結婚した。2LDKの中古マンションを買って住んでいる。専業主婦。生まれてくるこどもの名前の候補のひとつが、『公平』。マタニティ教室に通っている。
井上秀一(いのうえ・しゅういち):夫。妻より2歳年上
妻は夫をバリバリ働く優秀な社員だと思っていた。
職場のソフトボール大会に行ったときに、夫は周囲からバカにされている社員だということがわかった。夫は職場のお荷物だった。
夫は、家で上司の悪口を言っていたが、それは、夫が、仕事ができないから叱られてばかりいることが原因だった。
これからこどもも生まれてくる。夫は仕事を続けられるのだろうかという不安が妻を襲います。
なかなかリアルです。
『…… 家のローンを組むと、男っておとなしくなるのよ』
『…… 男と会社の関係って、永遠の片思いなのよね』
ご主人は、ちゃんと会社に行っているのだろうか。不安が募ります(つのります)。
ご主人は、バッティングセンター通いを始めました。
ご主人の会社で、人員削減の話が出ます。
グループ全体で800人の削減です。
ご主人も削減の対象になるのではないか。
妻は不安です。夫に、あなたは、会社で役立たずだと思われているんじゃないの?と聞きたいけれど、聞けないもどかしさがあります。
ご主人は、段取りをしない人間だそうです。(準備をしない)。『最初の一歩がとにかく遅い』という評価が、ご主人の妹からあります。
夫には昇進とか昇給の夢は望めないようです。
奥さんは、夫に期待するレベルを下げることにしました。なんとか、勤めてくれていればいい。
『絵里のエイプリル』
浜田絵里 高校三年生。私立の女子高生。ぽっちゃり女子
「どうやらうちの両親は離婚したがっているらしい。」から始まりました。
高校生の娘は、両親が離婚するなら、こどもふたりの親権者は母で、父には家を出てって欲しいと思っている。家族は戸建てに住んでいるそうです。
母方の祖母:名古屋に住んでいる。孫の浜田絵里を自分の娘と勘違いして、孫に、両親の離婚話を電話で話してしまった。絵里は、両親に離婚話があることを知った。
母親:浮気をするようなタイプではない。毎日家にいて、お弁当をつくっている。専業主婦
以下、女子高生の友人たちで、仲良し4人組です。いつも4人でお弁当を食べています。
絵里(主人公):両親は、別々のベッドで寝ている。
奈緒:両親は和室でふたつのふとんに寝ている。
翔子:作家志望。両親はダブルベッドに寝ている。
朝美:家で、家族新聞が発行されている。両親は、ふたつのシングルベッドに寝ている。
「冷え切った夫婦」
絵里の父親は、平日は、家で夕食を食べない。土日だけ家で食べる。平日は残業をしている。あるいは、居酒屋に寄るか、マージャンをしてから帰宅する。
奈緒の父親は、会社から7時に帰宅して、毎日家で夕食を食べる。
翔子の父親は、9時過ぎに帰宅して、ひとりで夕食を食べる。
朝美の父親は、税理士をしている。帰宅する時刻は日によってバラバラです。週の半分ぐらいは自宅で夕食を食べる。
佐々木:クラスメート女子。美人。両親が離婚している。小2の時、おとうさんが家を出て行った。弟がいる。離婚原因は父親の浮気だった。
1組の神田さんと2組の中川さんも親が離婚している。5組の安藤さんは、離婚はしていないがずっと別居している。(佐々木情報です。なんか、すごいなあ、女子高生の情報網って)
橋本:英語教師。30代前半。離婚している。母子家庭。(なんだか、すごいなあ、女子高生たちは、橋本先生に離婚に関するインタビューのようなことをしています。ほかの教師も離婚しているそうです)
「今はがまんして、おとうさんの退職金が出るときを待つ」
佐藤雄一(さとう・ゆういち):東高校の生徒。親は医者だが、医者になる気はない。
2歳下の弟浩二が医業を継ぐ予定。
親は離婚している。弟は母親に引き取られた。
自分は父親と暮らしている。父親は弟を引き取れば良かったと言っている。
以前、佐藤は絵里と付き合いがあった。その後、絵里は関係をうやむやにしている。絵里は佐藤を大好きというわけではない。
「子供の人生が親のものじゃないのと同じで、親の人生も子供のものじゃないんだよな」
こどもたちから、離婚してもいいよと言われたら、親はつらい……
きょうだいがいてよかった。
人生の正念場です。
『夫とUFO』
「夫がUFOを見たと言い出した。」から始まります。UFO:空飛ぶ円盤
高木達夫:夫。42歳。課長職。不器用。一本気(いっぽんぎ。純粋でいちず)。正直。うそはつかない。浮気はしない。無骨(ぶこつ。洗練されていない)
高木美奈子:妻。40歳。専業主婦。ふたりは、16年前、26歳と24歳で付き合い始めて結婚した。
夫は、仕事のストレスで心が壊れたのか…… 精神、メンタル病でしょう。
夫は、交信周波数が合った人間には、UFOが見えるそうです。
アダムスキー型:円盤の下部に、おわん型のでっぱりが3個ある未確認飛行物体(UFO)
夫の言動がおかしい。
住宅ローンがまだあと28年間残っている。下の子が大学を出るまであと11年ある。
夫の頭の中がおかしい。さて、どうする。そんな話です。
夫は元気です。でも、おかしいのです。頭の中が、おかしい。
妄想があります。もうそう:誤った判断
だけど、おもしろい! 真っ正直なご主人です。
ご主人は、職場でがんばって、がんばって、ついに、頭がおかしくなってしまった。
奥さんが、ご主人の救出に向かいます。(いい奥さんです)
なかなか良かった。奥さんの心もちがステキです。
『里帰り』
盆正月の帰省、里帰りの話題です。結婚すると、とくに、ちびっこが生まれると、悩ましい義務的旅行になります。こどもが大きくなると、忙しく、里帰りも回数が減ります。
短編では、結婚後、初めてお盆を迎える時期です。夫婦は東京住まいです。
それぞれの実家へ帰ることになりますが、夫の実家は北海道、妻の実家は名古屋市です。
作者は、岐阜県出身の方なので、名古屋市の記述はリアルです。身近に感じました。
岸本幸一:夫。30歳。会社員。忠犬IT企業技術職。実家は、北海道札幌市。妹が結婚している。妹の夫は公務員。妹夫婦には、生後6ヶ月の男児勇樹がいる。
岸本紗代:妻。29歳。大手デパートを結婚退職後、専業主婦。実家は、愛知県名古屋市
8月15日に北海道へ行き夫の実家で2泊して、新千歳空港から飛行機で、愛知県にある中部国際空港へ移動して、名古屋市内の妻の実家で2泊します。東京へ戻って、骨休めの休日が1日あります。なかなか強行軍です。
たいへんな帰省旅行ですが、若い夫婦が、お互いに気をつかいあっています。ステキです。
夫婦は、こうして、夫婦になるのです。
身内の人たちがふたりに優しい。
ほっとするものがあります。
みんなそれぞれ苦労をかかえています。
みんないい親戚です。
両親の心もちもいい。
お互いに、うちの息子をよろしく、うちの娘をよろしくと、ひそかに頭を下げてお願いされています。
心を洗われました。
『妻とマラソン』
「妻がランニングにはまった。」から始まります。
大塚康夫:夫。46歳。小説家。ベストセラー作品あり。自宅の書斎で、パソコンを使って創作をする。
大塚里美:妻。45歳。専業主婦。夫の小説による大きな印税収入を銀行員に勧められて投資信託に投資して手痛い含み損をつくってしまった。
おろしたくてもおろせない状態になっている。
そんな状況にあって、ランニングに目覚め、1日に1時間以上走る。
大塚恵介:ふたごの長男。中学三年生受験生。サッカー部員
大塚陽介:ふたごの次男。同じく受験生。サッカー部員
フレディ:大塚家の愛犬
奥さんがランニングに出かけて、帰ってきません。交通事故を心配する3人家族です。(奥さんはただ、何時間も往復を繰りかえす緑道コースで、16kmを走っただけでした)
奥さんの言葉です。
「ただ、走りたいから走っている」
ベストセラー作家の妻にもそれなりのストレスがあるそうです。
ともだちがいない。高収入世帯・高額納税者世帯なので、同世代の女性が近づかない、遠慮する、住んでいる世界が違うという扱いをうけるそうです。
ご近所の主婦から、誘われないのです。女たちの節約話には入れないのです。投資信託の失敗を話したら、「いい気味だ(ざまあみろ。人の不幸を喜ぶ)」の大合唱だったそうです。
もうひとつが、ベストセラー作家のだんなさんに先を越されているというあせりがある。
人間の能力としてです。妻が、おいてきぼりなのです。
妻はすることがない。出かけるところもない。夫に気を使って、別々の時間帯に食事を食べることもある。妻は、孤独です。
2月27日東京マラソン開催日です。
奥さんは、悩んだ末に東京マラソンへの出場を決断しました。こどもたちの応援がためらう気持ちを後押ししてくれました。
走るからには、きちんと走りたいと思う奥さんです。歩けばいいやとは考えていません。
東京マラソン参加者の数が、3万5000人です。すごい。多い。
ふたごのこどもたちが応援する声が沿道で響いています。
「おかあさん! こっち! こっち!」
いいお話でした。
このブログへのコメントは muragonにログインするか、
SNSアカウントを使用してください。