宙ごはん(そらごはん) 町田そのこ

宙ごはん(そらごはん) 町田そのこ 小学館
宙(そら):女の子 産みの親である実母が川瀬花野で、育ての親が、川瀬花野の異父妹である日坂風海(ひさか・ふみ)。宙は、日の崎第二小学校小学一年生
宙にとっての「ママ(育ての親)」 日坂風海(ひさか・ふみ):幼稚園卒園までの宙(そら)の育ての親。
育児能力にかける姉の川瀬花野に代わって、宙を育ててきた。
夫と宙のいとこにあたる娘がいる。川瀬花野より二歳年下
パパ 日坂康太:32歳。日坂風海の夫。日坂家は、仕事の関係で、親子三人がシンガポールに行った。
宙は、川瀬花野のこどもなので、いっしょには行かなかった。まあ、宙の親権者は母親でしょうからしかたがありません。宙の父親はどうなってるのか?
いとこ 萠(めぐむ):日坂夫婦の娘。宙のいとこ
宙にとっての「お母さん(実母)」川瀬花野(かわせ・かの):宙の実母。かぐや姫みたいな長い髪。白い肌。人形のような華やかな顔。細い体。美しい人。ハスキーな声。八重歯。宙は、実母を「カノさん」と呼ぶ。花野は宙を『あんた』と呼ぶ。
芸術家タイプ。イラスト画家。イラスト製作の仕事に追われている。世間の人気はある。
本人の成育歴に暗い影があり、こどもの育て方がわからないようす。
料理はできない。おふろにはちゃんと入らない。ゲップもおならもどこでもする。牛乳はパックから直接飲む。
大人なのに大人らしくない。こどもに干渉しない。下品なアニメを見る。行儀が悪い。感情がそのまま顔や態度に出る。宙に自分を、『母』と呼ばせない。宙は実母を、『カノさん』と呼ぶ。
いやに乱暴な人で、読んでいて、この人は精神病ではないかとすら思います。クレイジー(狂っている)な面があります。
佐伯恭弘(さえき・やすひろ):川瀬花野の2学年下の同級生。中学1年生でいじめにあっていたとき川瀬花野に助けられたことで、花野を慕っている。
川瀬宅に来て料理をつくっている。花野のことを好きだが、花野は佐伯のことをなんとも思っていない。愛称が、『やっちゃん』。花野の異父妹である日坂風海の中学同級生。
柘植(つげ):川瀬花野の恋人。花野よりかなり年上の人。柘植と川瀬花野の関係は、パトロン(資金の出資者)と踊り子(資金源のパトロンにつくす人)の関係のようです。見た目とお金だけの付き合いです。(読み進めたら、そうでもありませんでした)
第一話から第五話まであります。それぞれ食べもののタイトルが付いています。
『第一話 ふわふわパンケーキのイチゴジャム添え』
ちょっと刺激的な出だしです。
『お母さん』と『ママ』は、まったく別のものだと宙(そら)は思っていたから始まります。
産みの親と育ての親だと気づきます。
しらかば保育園年長クラスすいか組所属の宙です。
三月生まれ(早生まれ)の宙は、五月生まれの大崎マリーにいじめられます。
こどもを産んでも母親の役割を果たせない女性っていると思います。そういうことって、あんがい特別なことでもないような気がします。
父親の仕事の人事異動でシンガポールへ旅立った日坂ファミリーと別れた小学1年生の宙は、川瀬花野の家で、実母の川瀬花野にほったらかしにされて孤独です。
宙の実母の川瀬花野は、絵の世界でいくらいい仕事をしていたとしても、人としてダメです。
いるんだろうなあ。こういう人って。女でも男でもいるんだろうなあ。ステージ上(職場)では輝いていても、家では厄介者(やっかいもの)なのです。
育児放棄に属する児童虐待です。そもそも川瀬花野に育児能力がありません。
宙について、なにか得意なことをつくってあげなければ、宙は、生き続けることができません。
料理が、宙を救うようです。
師匠登場です。
師匠は、佐伯恭弘です。
師弟関係が結ばれた雰囲気があります。
パンケーキづくりが始まります。
実母は『(こどもの)可愛がり方を、知らないんだ』
川瀬花野は、ひとりで生きてきた。
川瀬花野の実母は、2回結婚した。一度目は正式なもので、二度目は内縁関係でしょう。
親に強制されて、いやいや結婚した婿として迎えた最初の夫とのこどもが花野だった。
花野の実母は、夫と花野を自分の実家に残して、別の男と駆け落ちをした。
実家を飛び出したあとの同棲相手との間でできたこどもが日坂風海(ひさか・ふみ)です。
ということは、異父姉妹(川瀬花野と日坂風海の関係)です。
その後、花野の父親は、花野を置いて、花野の実家を出ていった。
花野は母方祖父母に育てられたが、祖父母には可愛がってもらえなかった。
(かなりややこしい)
60ページから感動的な展開になっていきます。
人は、おいしいものを食べた時に、『今までつらいことがたくさんあったけれど、これまで、生きてて良かったなあ。また、これを食べるためにがんばろう』という気持ちになることがあります。
味わいのあるいい作品です。
人間同士の付き合いでは、誤解と錯覚がつきものです。
お互いをわかり合うために、言いにくいことであっても相手に向かってちゃんと言ったほうがいいという趣旨の作品です。人間を『理解』するための作品です。
腹を割って、本心を話せる関係からユーモア(人の心をなごませる上品な笑い)や笑いが生れて幸福感が広がることがあります。
『第二話 かつおとこんぶが香るほこほこにゅうめん』
自分はおとなになってずいぶんたつまで『にゅうめん』を知りませんでした。
奈良県の明日香村(あすかむら)に行って、石舞台古墳とか高松塚古墳、飛鳥寺などを見学したあと入った食堂で生れて初めて『にゅうめん』なるものを食べて、世の中にこんなにおいしいものがあったのかとびっくりしました。あたたかいソーメンで、具だくさんでした。
この本は、こどもの本だろうかという疑問をもちがなら読んでいますが、第二話を読み終えて、こどもの視線で、おとなの世界、あるいは、おとなの社会を描いている本であると理解しました。
主人公の川瀬宙(かわせ・そら)は、第一話で小学一年生でしたが、この第二話で、小学6年生に成長しています。話がすすむごとに年齢があがっていくのだろうと予想しました。
自分が産んだこどもの宙(そら)よりも、かなり年上の男性(柘植(つげ)花野の恋人)に心がいく川瀬花野です。
男性に依存しないと生きていけない女性が川瀬花野です。そして、川野花野はこどもの宙に甘えています。宙は気持ちが不安定になります。
やっちゃんお料理教室:生徒は、川瀬宙。第一第三土曜日に『ビストロ サエキ』で開催される。料理の先生は、川瀬宙の母親を慕うけれど相手にされていない母親川瀬花野の中学で二年後輩の佐伯恭弘(今年で37歳。以前は金髪だったが、今はやんちゃなところはなくなった。父親が亡くなってレストランの二代目オーナーになっておとなしくなった)です。宙は小学一年生の時から佐伯恭弘に料理を教わっています。
読み手が、大きなショックを受ける展開になってしまいました。(ここには書けません。本を買って読んでください)
川瀬宙の生みの親である川瀬花野は、おとなじゃありません。こどものまま歳をとった人です。
こじれた話の回収のしかたがすばらしい。
すぐれた推理小説を読むようです。
母親に『十分に母親であることを』求めない。
(この作者さんは、今一番のっている作家さんではなかろうか。記述と展開がじょうずですばらしい。絶好調です)
そして『にゅめん』で話をまとめる。
『第三話 あなたのための、きのこととろとろポタージュ』
第三話では、主人公の川瀬宙が、中学三年生までに成長しています。
神丘鉄太:今回の話で、川瀬宙の彼氏のようになる中学三年生男子。いろいろわけありの家庭です。
父子家庭。父は正彦。母親は鉄太が小学生のときに病死した。
現在21歳の姉佳澄(かすみ)は、高校生のときにバイト先の店長のこどもを妊娠して出産、高校は中退、店長と結婚したが、店長が浮気、離婚、シングルマザーとなって実家に戻ってきたが精神状態不安定。精神的な病気になっているもようです。
第二話では、文章から凄み(すごみ。背筋がぞくぞくとする感じ)が伝わってきました。
第三話も最後まで読んで感嘆しました。(かんたん:完成度の高さに感動しました)
男女間の別れを表現してあります。
中学生同士の別れがあり、あわせて、おとなの愛情がかなわぬ別れがあります。
そこにちびっこの葵(あおい)3歳女児がからんできます。
読んでいての感想です。
しみじみと、男と女は、どうして離婚するのかと思う。
なんのために結婚するのか。
男と女は、いっしょに暮らしてみないと相手のことがわからないということはあります。
相手が、(なになにが)できると思っていたことができなかったりもします。
素(す)の自分を相手に見せていなかったということが判明します。
仕事場では、仕事をしない人が一番嫌われます。仕事をしない人の仕事を、ほかの人がやらなければならなくなるからです。だれしも負担を嫌います。
家庭では、家のことをやらないメンバー(家族の構成員)は嫌われます。
(この本では、197ページに男女の出会いと別れについての宙の考察があります)
登場人物たちである女性たちは、みな繊細(せんさい:きめこまやかな)な感情をもっています。その感情は『涙』につながります。
いい文章として『……いつも、不満を小出しにできずに溜めに(ために)溜めて爆発させて……』
母さんを頼りたいけれど、母さんはもう死んでいて、頼れない。(神丘鉄太の言葉の要旨)
人間って、思いどおりにいかないことが多い。
(いいなあ。この本の作品群)
3歳女児は「ごっこ遊び」が好きです。
葵を「ごっこ遊び」にもちこむ川瀬宙です。(うまい)
173ページ、泣けてくるようなお話です。
あとの世代に伝えていくもの。『料理』です。
21歳のママがひきこもりです。3歳の娘さんはほったらかしにされています。
ママはちょっと精神病気味(ぎみ)です。たしか、任意入院とか医療保護入院とかいう手段がありました。あばれたらだめです。たしか、自傷他害(じしょうたがい。自分を傷つけ、人に危害を加える)のおそれありが強制的に入院させる条件でした。
宙(そら)が優しい(やさしい)。
話のふくらませかたが、うまい!
202ページ。すごいなあ!
ここまで人生を思いつめる。
今年読んで良かった一冊になりました。
ラストの数行がすばらしい。
『第四話 思い出とぱらぱらレタス卵チャーハン』
川瀬宙は、17歳、高校二年生に成長しています。
いろいろゴタゴタが起きます。
みんな、精神病みたいな人ばかりです。思いつめておかしくなっています。
『……普通じゃない母親なんて、もううんざり!』
今回は、このこじれた話を、作者はどう、回収するのだろう。
『……正論すぎて困ることもあるけどさ』
複雑な心のからまりあいがあります。
心が屈折する原因となる出来事がいくつもあります。
みせかけだけのお金持ちです。
オープンに、隠さずに話せば、こんなことにならなかったのにと読んでいて思うのですが、言い出せなかったということはあると思います。ゆえに、苦しい。
夫婦とか親子の関係の修復話です。
ふと思う。この本は、第三話まででよかったような……
(話が重すぎる)
川瀬花野が、実は料理上手だったという内容の変化もどうかと思う。
作者は次の最終話でどう全体をまとめるのだろうか。
『第五話 ふわふわパンケーキは、永遠に心をめぐる』
最終話です。
第一話から第五話までそれぞれタイトルが付いているのですが、タイトルが長すぎることと、内容とぴったりくるという瞬間的な感覚が生れないので、タイトルを見てピンとくるものがありませんでした。
お話全体の終わりに向けて、内容の展開がうまくいっていない印象があります。
読んでいて思うのは、やはりこの本は、第三話で終わっていたほうが良かったのではないか。
第四話以降は、読み手各自が自分の頭の中でつくればいいのではないか。
第四話以降は、読み手は、読むことが苦しい。
352ページまで読んできて、この本の主人公は、川瀬宙ではなく、レストラン、『ビストロ サエキ』の店主であった佐伯恭弘であったことがわかりました。
パンケーキです。最後に、最初の位置に戻ることが物語づくりの基本です。
358ページ、きれいな終わり方は良かった。
このブログへのコメントはmuragonユーザー限定です。