「娘心にブルースを 原由子(はら・ゆうこ)」と「先生のわすれられないピアノ 矢崎節夫」

熊太郎


「娘心にブルースを 原由子(はら・ゆうこ)」と「先生のわすれられないピアノ 矢崎節夫」


著者は音楽バンドであるサザンオールスターズのメンバーで、桑田佳祐さんの奥さんです。

2012年(平成24年)6月に読んだ本の感想記録です。

娘心にブルースを 原由子 ヴィレッジブックス


 サザンオールスターズをはじめ幾人かの音楽DVDを見たことがあります。

 意外だったのはみなさんシャイ(恥ずかしがり屋)で、内向的な人が多かったことでした。

 舞台上では雄弁でも私生活ではおとなしくて静かです。押し出しの強い政治家と同類と思っていたのは間違いでした。


 さて、本の中身は、母親の若い頃の昔話を聞いているようです。

 読んでいると不思議な感覚に陥ります。ご本人についての就学前の記述が多い。後半でも幼児の記録が顔を出します。原由子さんは、1歳半からの記憶があるらしく驚かされます。


 旦那さんの桑田佳祐さんに関する記事は少ない。

 音楽に関する記事は膨大まではいかずともかなりの量を割(さ)いておられます。

 音楽活動が好きな人です。


 冒頭で両親の出会い話から始めることは珍しい。

 作中何度も肥満の話が出るのは、そう見えないので違和感があります。


 音楽は環境であることがわかります。ドイツ製のピアノで練習をされています。

 特攻隊に行った音大生たちのことを書いた「先生のわすれられないピアノ」という児童文学作品を思い出しました。第二次次世界大戦終盤時、特攻隊で散った音大生たちが弾いたのも、やはりドイツ製のピアノでした。


 華やかな大学生活と比べて、14歳から16歳にかけてのご本人の思春期は暗い。

 私立中学不合格を何度か経験されています。

 自分が希望する高校に合格したにもかかわらず、母親の勧める高校に無理やり進学させられて、教室で孤独感を味わっておられます。

 母親の勧めに従ったから結果的に今があるわけですが、基本的に親はこどもの進路に口出しをしないほうがいい。ご本人のケース(事例)は、運がよかっただけです。

 原由子さんは、淋しかった高校時代は、音楽に助けられたと記述されています。


 本を読んでみて、全般的に普通の人という印象がただよっています。

 違うのは、音楽への集中力が人並み以上にあるということです。



読書感想の流れとして、2012年(平成24年)5月に読んだ本の感想記録です。

先生のわすれられないピアノ 矢崎節夫(児童文学作家) ポプラ社


 以前、鹿児島県にある知覧特攻平和会館を見学しました。出入り口近くにピアノが置かれていました。

 そばに、ピアノに関する紹介文があり、この本のことが書いてありました。

 こどもさん向けの本です。先生とは上野歌子さんで、16歳で佐賀県鳥栖市(とすし)の小学校の音楽教師(見習い)になられた方です。


 ピアノはドイツ製で価格は家5軒が買えた価値があり、当時だと5000円となっています。買ってくださったのは、婦人会の方たちで募金が原資となっています。購入したのは1931年(昭和6年)です。


 特攻隊で死地に赴く(おもむく)若者ふたりが小学校を訪ねてくるのです。

 音楽大学の学生さんだったそうです。死ぬ前に思いっきりピアノを弾(ひ)かせてほしいのです。曲名はベートーベン作曲の「月光」です。

(なにゆえ、楽器であるピアノを弾く音大生たちが、特攻隊として敵艦に向かう戦闘機の操縦をしなければならないのだろうか。大学生なら学部を問わず、もうだれでもよかったということなのだろうか?)


 本におけるクライマックスシーンは、数時間の出来事です。それ以外のページをどうやって埋めるのでしょうか。


 実在したたくさんの人たちの名前が登場します。校長、音楽担当教師、役所の職員などです。美談となっています。


 そこに時代背景、歴史上の事実があり、戦争はもうやめようというメッセージが流れています。

 佐賀県の脊振山地(せぶり、吉野ヶ里遺跡のそば)とか、鳥栖市(とすし)、それから大分県の日田市などが地理的要素として登場します。わたしはいずこも行ったことがあるので、身近に感じます。


 上野歌子先生は英語を学びたかった。でも、敵国語であるので、学びにくかった。

 戦時中、英語表現を日本語表現に直す記述があります。こっけいで無意味です。


 52ページに、昆虫記を書いたファーブルの言葉があります。涙がでそうになります。

 『運命を変えるチャンスは3度ある。よき教師に出会ったとき、よき友人にめぐり会ったとき、教師にも友人にも出会えなくて、1冊の心を打つ本にめぐり会ったとき』とあります。


 179ページの畑田義則さんの言葉にも胸を打たれました。『二度と同じ過ちを繰り返さないために、このピアノを保存したい。』魂(たましい)がこもっています。


 戦時中の学校教育はめちゃくちゃです。読みながら、わたしはいい時代に生まれた。不平不満は言えないという気持ちになりました。