なまえのないねこ 竹下文子・文 町田尚子・絵

熊太郎


なまえのないねこ 竹下文子(たけした・ふみこ)・文 町田尚子(まちだ・なおこ)・絵 小峰書店


(1回目の本読み)

 こどもさん向けの絵本です。
 ねこの名前と聞いてすぐに思い浮かぶのが『イッパイアッテナ』の世界です。
 それぞれの人が、一匹のねこに、思い思いの名前をつけるから、一匹の猫の名前が複数になるのです。
 たしか、ねこ自身が、ほかのねこに自分を紹介するとき、自分の名前は『イッパイアッテナ』と紹介するのです。
 『ルドルフとイッパイアッテナ 斉藤洋(さいとう・ひろし) 講談社』シリーズ化されています。


 さて、こちらの絵本です。
 有名な絵本ですが、読むのは初めてです。
 ねこと親しいわけではありませんが、わたしは、近所のお散歩で、林の中にいる、のらねこたちとすれ違います。

 よく見かけるのらねこが何匹かいます。
 林の中を散歩する年寄りたちは、思い思いに勝手に名前を付けてねこを呼んでいます。
 名前を呼ばれたねこは返事もします。ニャーだかミャーだか声が返ってきて、まるで人間とねこが会話をしているような空気のときもあります。
 『まる』とか、『ぶーちゃん』、『みーちゃん』、『Qちゃん(きゅうちゃん)』、『シロ』とか名付けています。
 ねことのそんな縁(えん。つながり)を感じて読み始めました。


 ねこ目線(低い位置)である絵本の絵がいい。
 視界の角度や広がりが新鮮です。
 絵本ですから、短時間で読み終わりました。
 今年読んで良かった一冊です。
 心優しい絵本でした。良かった。



(2回目の本読み)

 さて、読み進めます。

 なまえのないねこが、なまえのあるねこたちのいるところを巡ります。
 最初のねこが、靴屋のねこです。
 商品の靴が入れてある紙箱の山に隠れて、店の中をのぞいているなまえのないねこです。
 靴屋のねこの、『レオ』は顔がちょっとこわい。
 ライオンという意味の、『レオ』です。


 ページをめくりながら、こっそりかくれているなまえのないねこの姿を探すことが、ちびっことの楽しい読み聞かせになるでしょう。
 なまえのないねこは、本屋の外からお店の中をじーっと見つめています。
 本屋のねこのお名前は、『げんた』です。元気でいますようにとの飼い主の願いがこめられています。


 次は、八百屋のねこです。
 『チビ』という名前ですが、こねこは成長して、デッカちゃん(でかい)みたいな太って大きなねこになっています。
 チビという名前と体の大きさが一致しません。


 おそば屋のねこには、おそば料理の名前が付けられています。『つきみ』です。月見そばからとってあるのでしょう。おもしろい。


 パン屋のねこ2匹には、児童文学、『アルプスの少女ハイジ』に出てくる登場人物の名前が付けられています。『ハイジ』と、『クララ』です。
 ねこの名前ではありませんが、ヤギ飼いがペーターで、ヤギの名前が、『ユキちゃん』だったことを思い出しました。
 大きな犬が、『ヨーゼフ』でした。なつかしい。まだわたしがこどもだったとき、熱心にテレビでマンガ劇場を見ていました。


 喫茶店のねこは、名前がふたつあるそうです。おばさんは、『ミミちゃん』と呼び、おじさんは、『しろまる』と呼びます。
 やっぱりな。『(1匹のねこの名前が)イッパイアッテナ』の世界です。


 お寺のねこは、長生きするように、『じゅげむ』だそうです。

 落語の寿限無(じゅげむ)ですな。
 緊急事態発生時に名前が長いと名前を読んでいるうちに状況が悪化するような気がするのですが、縁起としては縁起がいい名前なのでしょう。(縁起(えんぎ):ものごとの良い悪いのきざし、まえぶれ)
 初めて、ねこどうしの会話が出ました。
 お寺の白いねこと、なまえのないねことの会話です。


 描画に風情があります。
 油絵のカンバス(布目調)に絵が描いてあるような絵本です。


 なまえのないねこが、自分のことを、『ぼくも』と言ったのでびっくりしました。これまで、わたしは、なまえのないねこは、女子のねこだと思いこんで読んでいました。ねこは、男の子でした。(最初のページに、『ぼくは』とあるのを見落として失念していました)


 さあ、終わりが近づいてきました。
 犬のワンちゃんたちにも名前があります。
 お花屋のお花たちにも名前があります。
 でも、なまえのないねこには、なまえがありません。


 雨降りの絵が出てきました。
 なまえのないねこは、木製ベンチイスの下で雨宿りをしています。
 なまえのないねこの存在・立場・状況が、同類の人間の心理として重なります。
 『孤独』があります。ひとりぼっちです。
 歌手八代亜紀さんが唄う(うたう)演歌『雨の慕情(あめのぼじょう)』のような景色です。


 ひとぼっちのなまえのないねこに話しかけてきた5歳ぐらいの女の子がいました。
 女の子は、赤い傘をさして、しゃがんで、ベンチの下にいるなまえのないねこに話しかけてきました。おなかがすいていないかいと声をかけてくれました。『きみ、きれいな メロンいろの めを しているね』
 救世主現る(きゅうせいしゅあらわる)です。
 このお話の肝(きも。ポイント)になる部分が最後に出てきます。


 最後付近にある見開き2ページと、最後の1ページでは、胸がジンときます。
 なまえのないねこには、すてきな、おなまえが、つきました。『メロン』です。

 そして、そばに、女の子のお母さんがいます。メロンは、なまえをつけてもらって、飼い主になってくれる人たちに出会いました。
 なんというか、気持ちが落ち着ける空間が、ねこにも人間にも必要だと感じたのです。
 いい絵本でした。

 必要なのは、なまえではなくて、自分のなまえを呼んでくれるひとがいることなのです。