下流志向 学ばない子どもたち働かない若者たち 内田樹

熊太郎

2021年(令和3年)3月に読んだ本の感想記録です。

下流志向 学ばない子どもたち働かない若者たち 内田樹(うちだ・たつる) 講談社文庫


 「まえがき」を読んでいて考えたことです。この本は、こどもが勉強しなくなった。若者が働かなくなったという内容が書いてあるようです。本の発行は、2007年(平成19年)ですから、今から13年ぐらい前です。その当時の小中学生、大学生たちはいまごろ、二十代から三十代でしょう。


 本が出版されて、その後の動向はわかりませんが、「まえがき」に書いてあることに納得、同調できる部分が多い。


 わたしの考えでは、業務処理能力の低下は著しい。丁寧さ、緻密さが不足している。省略したがる。点検不足。雑な処理対応が目立つ。ゆえに間違える。そのほか、責任者になりたがらない。ゆえに組織が構築しにくくなっている。高学歴でも仕事場では戦力になりにくい。あとは、意外にガラが悪い。いざとなると乱暴な言動が出てくる。さらに都合が悪くなると無言になる。無言になってその場から自分の存在を消す。

 付け加えるなら、自分の頭で考えない。質問を繰り返す。どうしたらいいですか。指示されて従って結果がうまくいかなったときに自身には責任はないという手法を用いる。


 日本が先進国だった時代は終わっている。島国であるという幸運で、なにかと守られている。1年365日24時間感覚で働いてきた世代が蓄積してきた資産をこれからの世代が消費していく。国力の衰退化が予想されます。

 ただ、この時勢を止めたり流れを変化させたりすることはとてもむずかしい。


 学校を卒業して社会人になって気づいたことがあります。

 この世には、五体満足で口が達者でも働けない人がいる。いわゆる「依存」で食べていく人がいる。そういう生き方を否定することはできない。人の生き方の手法としては有りです。人は働かなくても食べていける環境に置かれると働かなくなる。いかにして働かなくても食べていける状態を維持していくかに心の動きが集中します。

 もうひとつ、社会人になってわかったことがあります。学校では先生から何度も「そういうふうでは社会に出てからやっていけないぞ」と叱られました。社会に出てみたら、なんだ、いいかげんな人ばかりではないかとがっかりしながらもほっとしました。だいじょうぶ。自分はこの世界で生きていけそうだ。


「第一章 学びからの逃走」

 下流社会への階層降下とあります。(これは、社会システムが下流社会をつくるということではなく、若者自らが下流社会へ落ちることを望んでいると分析があり納得できます)

 下流:貧しい階級

 諏訪哲二さんの本「オレ様化する子どもたち」タイトルを見て衝撃があります。師弟関係というものが崩壊したのだなと。(読み続けていてあとでわかったのですが、今読んでいるこちらの本は「師弟関係」を重要視しています)

 「日本の子どもたちは世界で最も勉強をしない子どもたちになってしまった」あんなに塾通いをしているのに。主体性に欠けるということだろうか。親にやらされているということだろうか。

 「競争」がなくなってきた。あっても低水準の集団内における競争になっているそうです。なるほど。責任を負う役職者になりたくない人が増えたので、役職者になりやすい時代です。


 漢字の読みや文章作成について書いてあります。高学歴の人でも長期間文字を書いていないと文字を書けなくなります。まずは漢字を書けなくなります。文章はなおさら書けなくなります。


 キーワードのひとつとして、

 「わからないことがあっても気にならない」自分の知らないことは「存在しないこと」として扱う。


 過去の世代が「お金や権利」に執着したことが、いまの世代の人格形成に影響を与えたのではないか。損か得かが物事を決定するときの判断基準です。

 公平に考えるなら、本の内容は一方向からの考察になっているので、相手方の言い分も聞かねばなりません。


 本に書いてあるとおり、こどもからの「どうして人を殺してはいけないのですか?」と質問されて、答はないのでしょう。「じゃあ、あなたは、殺されてもいいのですか?」と問い返すしかありません。自分は殺す立場にある人間だという強い思い込みがあって、殺される立場にある人間でもあるということに気づけていません。


 生活が便利になったことで失ったものは大きい。便利になるにつれて、本来人間の心や身体がもっていた良質な機能が退化していっている。


 怖いことが書いてある本です。

 学校が荒廃しています。愛情とか友情が見当たりません。

 こどもたちは教師に、学校で「不快」を主張するために通学しているそうです。そのためにすさまじいエネルギーをつぎ込んでいるそうです。

 学校がいらない時代になってきているのだろうか。読んでいるとこんな学校にこどもを通わせたくないという気持ちになります。

 だから、公立ではなく私立で義務教育を学ぶのだろうか。


 家庭内での労働教育環境の消失。親が働いている姿をこどもに見せる機会が減ったとあります。

 もうひとつは、こどもが家の手伝いをしなくなった。手伝う時間があれば勉強しなさいになった。

 母親(妻)が父親(夫)のことでがまんしていている姿をこどもが見ている。男のこどもから見た両親の景色と女のこどもから見た景色には、同じ景色でも違いがあるような気がします。

 学校が崩壊する。夫婦、親子関係も崩壊する。

 先に文句を言った者が勝ちという理屈をこどもが学習する。おまえのせいでこうなっているという思考が確立する。マナー(礼儀作法)が消えた。日本の社会システムの崩壊。暗い話題が続きます。


 絵に描けないものそれが「時間」

 こどもは学校をコンビニのようなものととらえていて、自分を消費者だと思っているそうです。

 時間も消費も実態がない。こどもが幽霊化している。


 読んでいて、こどもを責めてもしかたがないという気持ちになります。いじめや虐待で悲惨な思いをしているこどももいます。


 こどもが自分の未来を捨てた。


「第二章 リスク社会の弱者たち」

 この第二章では、最後のほうで、「迷惑のかけあい」ということで、戦後の助け合いのことが書いてあります。今は、相互扶助意識が薄れてきた社会というようなことが書いてあります。孤立無援。高位置の職に就いていても失職すれば、即、下流へ転落です。


 第二章を読み終えました。なにかしら、第一章との距離感がありました。カタカナ言葉を中心として言葉の意味がわからず内容を理解できませんでした。

 自己決定とか自己責任について書いてあります。

 

 自分を裏切らない信頼できるパートナーをもつ。

 セーフティネット(危機発生時対応のための安全網)をもっておく。なんだか、武士たちが戦い続けた日本の戦国時代みたいです。

 これはこうでなければならないとか、これはこうすべきものだというガンコな考え方は意外に危険です。


「第三章 労働からの逃走」

 13年前の本です。これから13年後が来るのも早そうです。13年後の日本はどうなっているのだろう。

 若者に関する記述を読んでいます。読みながら考えています。たしかに組織に貢献する組織人としての意識は弱いが、自分のしたいことはするという自由人の意識は強い。すぐに仕事を辞めたがる。本には、若者にとって、出世よりも自由が大切と書いてあります。

 

 生き方の基本として、「自分の成功を求める生き方と、周りの人にささやかな贈り物をすることをたいせつにする生き方……」と提案があります。とても参考になります。


 転職に関して、昔は石の上にも三年(忍耐すればいいことがある)と教わったものです。仕事と恋人は変えるたびに質が落ちていくと教わったこともあります。いまは転職を勧める世の中に変わりました。基準は時代によって変わっていくのでしょうが、やはり簡単に退職はしないほうがいいと思います。就労空白期間があると生涯獲得賃金総額も下がります。


 世の中はもともと不合理(理屈にあわない。筋がとおらない)不条理(ふじょうり。不合理であること)であることを受け入れられないと労働はできなくなるとあります。

 表面的には、割りが合わない(労力の割には賃金が安い)ので、そのことが不合理で働きたくないと主張し始めたら働けなくなる。


 労働に「等価交換」は存在しない。常にオーバーワーク(労力のほうが賃金より多い)

 労働の評価は無理。成果主義は無理

 人間は品物ではない。商品でもない。

 

「第四章 質疑応答」

 児童虐待の要因のひとつとして、親が子を製品として観る。思いどおりの製品ができあがらないので、ストレスがたまって、製品に危害を加える。怖い。

 

 昔だったら、わずらわしさを伴う小さな主張(クレーム)は問答無用で切り捨て御免の扱いをされていましたが、権利意識の高まりによって、管理する側が弱腰になり、わがままと思えるようなことも受け入れるようになってから、秩序が混乱する社会になりました。


 クレーマー(しつこく苦情をいう人。要求をしてくる人)について書いてあります。アメリカ的という考察があります。


 「師匠」について(師匠自身の独自の考えというものはない。師匠は自分の師匠が教えてくれたことを弟子に伝えるだけ。そして、弟子が師匠になったときは、自分の師匠が伝えてくれたことを弟子に伝えるだけ。伝承。なにか、深いものを感じました)加えて、良かった文節として「理論を語っても仕方がない」そういうものだと受け止めて実行していけば意味のあるところへ着地できる可能性があります。


 ずいぶんと長いあいまいな感想のような文章になってしまいました。最後まで読んでいただけた方には感謝いたします。ありがとうございました。

 読むことで考える。考えることで充実感を得られる。今年読んで良かった一冊でした。